自由大学について
新学長就任

学長 乃南アサ
武蔵野地域自由大学に学ぶ皆さんへ
こんにちは。小説家の乃南(のなみ)アサです。この度、武蔵野市と武蔵野地域五大学とが連携して生涯学習の場として設立された武蔵野地域自由大学の学長という、思いがけないお声がけをいただきました。
武蔵野地域自由大学は、その名の通り武蔵野市とその周辺に存在する五大学を縦横に横断し、市民が興味を抱いた分野を自由に、また縦横に履修することの出来る、ある意味でとても贅沢であり、理想的な形態の大学です。市民の方々が、それぞれに学ぶ心を持ち、そして望んだ学びの世界を五大学のどこかに見つけたら、あとはご自分達の好奇心と探究心とで学びの世界に入っていくことの出来る場です。これは、武蔵野市とその付近の地域に暮らす方々にとって、全国的にも希有な恵まれた制度だと思います。
世の中にはあらゆる分野でスペシャリストの方々が活躍しておいでです。事実、これまでの当学の歴代学長は皆さん、素晴らしいスペシャリストばかりでした。専門的な知識と視点を持ち、そこから世界を変えていこうとされることは大変に意義深いことと考えます。
その一方で、私は、それら長年の研鑽を積み、研究を重ねてきたスペシャリストの方々とは、ある意味で対する形になるジェネラリストの存在も、ことにこれからの時代には是非とも必要ではないかと考えています。ジェネラリストとは、簡単に言えば幅広い分野において豊富な知識やその経験値を持つ人たちのことです。自分たちの視野をより広く持ち、様々な分野の人たちと交流を持つことは、つまり、世の中に点々と存在するスペシャリストたちを柔らかく包み込む「ネット」としての存在になり得るのではないでしょうか。そして、様々な視点から世の中を見て、スペシャリストたちをつないでいったり、新しい提言を行うことさえ出来るだろうと思っています。
今、世界では様々な国で「分断」が問題視されています。各国で政権が交代し、混乱を生み、戦争も起きています。誰もが、相手の立場を考えるということをしない、自分たちの利益のみを追及する世界になりつつあるとも言えるでしょう。これは、未来への不安を抱かせるに十分であり、また、ことに若者達の未来に大きな影を落としています。分断ではなく融合をと、あらゆる方面から考えることも、これからは大切になるでしょう。
皆さまには、そんな時代に身を置いているからこそ、これまでの経験則も生かしながら、また新しい分野、世界へと目を向けて、ジェネラリストへの道を歩んでいただければと願っています。
私も非力ながらも市民の皆さまのお考えを知り、また関係者の皆さまにお力添えをいただきながら、学長としての責務を果たしていきたいと考えております。
【乃南アサ氏 略歴】
作家。昭和35(1960)年、東京生まれ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、昭和63(1988)年に『幸福な朝食』で日本推理サスペンス大賞優秀作を受賞し、作家活動に入る。平成8(1996)年に『凍える牙』で直木三十五賞、平成23(2011)年に『地のはてから』で中央公論文芸賞、平成28(2016)年に『水曜日の凱歌』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。他に『鎖』『嗤う闇』『しゃぼん玉』『美麗島紀行』『六月の雪』『チーム・オベリベリ』『家裁調査官・庵原かのん』『ニサッタ、ニサッタ』『いつか陽のあたる場所で』など著書多数。令和6(2024)年8月末に『マザー』(講談社)発刊。
武蔵野地域五大学共同講演会において、平成28(2016)年、基調講演講師をつとめた(テーマ「3.11後の生き暮らし方について」)。平成26(2014)年、「季刊むさしの」106号「むさしのTALK」でインタビュー掲載。令和4(2022)年、市制施行75周年・市ホームページ 武蔵野市プロモーションwebサイト「わたしらしく咲き誇る」にメッセージ掲載。